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そんな馬鹿な。どうして知っているんだ!
新婦の生い立ちが流れ終わり、いよいよ新郎、僕の生い立ちが流れた。
僕はここでも目を剥くほどに驚かされた。
スクリーンに映し出される数々のエピソード、そのどれにも心当たりがあるのだ。もちろん僕が事前に提出していた情報も含まれているので、全てに驚いたというわけではない。
しかし小学校、中学校の頃にあった細かい出来事、本当に些細な日常の一コマ、それが司会者の口から語られたことには大いに驚いた。
当事者以外では知り得ない、そして内輪の人間しか笑えないであろう話。僕自身、こうして映像を見て、そういえばそんなこともあったなと思い出したくらいだ。
確かに僕は小学校の遠足でおやつを忘れてしまったし、中学校の体育祭のリレーでは派手に転倒した。そうだ、確かにあれはアンカーだった。ディティールが細かく、そのうえはっきりとしているエピソード。それは到底、偶然とは思えなかった。これは明らかに僕の生い立ちだった。
混乱した。そして同時に僕は恐怖した。
人は自身の理解が及ばないものに対して恐怖を覚えるのだそうだ。だから幽霊は恐ろしいし、男からすれば女性の心変わりは怖い。僕は今まさに、この理解できない状況に恐怖していた。
そこで再び、僕の手の甲に温かく柔らかいものを感じた。
大丈夫、心配しないで――
それは僕の心に直接囁きかけてくるようだった。ちらりと目を向ければ、そこには優子の掌があった。置かれたままのそれが、僕の手を包み込むようにして軽く握られたのだ。
彼女の体温が僕に安らぎを与え、恐怖を薄めてくれる。それが再び思考する余裕をも生み出してくれる
そう、彼女は幽霊なんかではない。
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