0人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしよう」
我ながら情けない声が出た。運の悪いことに飛び出してきたのは夕方だ。もうすぐ日が暮れる。
「帰り道、わかるかしら」
へたり込むと不安が込み上げてきた。その事が可笑しくて笑ってしまう。
「帰りたくなくて飛び出してきたのにね」
うつむく先には、赤いワンピースの裾が落葉に混じってうもれていた。
そこに零れ落ちる髪は、黒とは程遠い山吹色。手を眺めてもそこにある色は赤みの目立つ寒色の白。
「帰りたいわ」
「……それってどっちなの?」
突然聞こえた声に顔を跳ねあげる。
「帰りたいの?帰りたくないの?」
さっきまで誰も居なかったはずなのに、そこには驚くほど白い人が居た。
「……綺麗」
「そりゃどうも……って言いたいところなんだけど、あんた怖くないわけ?逃げないの?」
真っ白な髪を結い上げている簪が首をかしげる動きに合わせて揺れる。
(五色の紐の簪なんて珍しい)
「何?簪が珍しいの?異国のお嬢さん」
からかうような話に少しムッとすると、白い人はごめんと頭を撫でてくれた。
「……五色だったから、それに、白い紅葉の着物、はじめて見たから」
「あれ?結構詳しいね」
そう言うと、その人は長い裾を振って見せる。真っ白な着物の合間に、深い赤の中地伴と黒い太帯が見えて思わず見入る。
「特別に織ってもらったんだ」
「紅葉が好きなの?ふつうこの織りなら桜じゃないかしら」
もしくは白無垢のように菊や御車か……。
最初のコメントを投稿しよう!