『白鬼』

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「何を笑っているんだ」 「別に、たいしたことじゃないわよ」  その問いをはぐらかして、私は足を動かす。  後ろへではなく、前へ。鬼が僅かに、たじろいだ気がした。 「ねぇ、本当に人ではないの?」 「どこを見ても僕は人間には見えないと思うよ」 「……そう」  思っていたよりも寂しさの滲んだ声になってしまった。  そう思いながらもまた一歩近づく。 「逃げないの?」  意外と距離があると思ったら、鬼の方が後ずさっているらしい。  もう一歩近づいてみる。 「逃げろよ」  怖い、でも。  気がつけば、視線の先に目的のモノがある。 「私を喰う前に、確かめさせて」 「喰っ……って、おいっ!!」  私はどうしても、目の前の『鬼』を『人』だと思いたかった。  手を伸ばして心の臓のあたりに触れる。……確かに触れているところは暖かいのに、目的の音が伝わらない。  もう少し近づいて耳をその胸に当ててみる。 「やっぱり、心の臓が別の場所にあるのね」  人ではないのだと、私と同じ異人ではないのだと認識してしまう、何よりの証拠。 (私は仲間が欲しかっただけなのね)  自嘲的な笑みが零れて、鬼にすがり付くような形のまま顔をあげてみる。 「……あなた、どうしたのよ」 「………」 「鬼でも風邪を引くのかしら、顔が真っ赤よ?」  そう問いかければ、鬼は目を見開いて片手で顔を隠しながらため息をこぼした。赤みは引くどころか、ますます赤くなっている。
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