温度

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「彼氏とは言わないんだ。」 「へ?彼氏?…そうね、彼氏ね。でもさ、彼氏とくれば彼女じゃん。澤ちゃんが彼氏だったら俺が彼女になるってこと?それなんかずるくない?俺も彼氏になりたい。でもなんか、澤ちゃんは彼女って柄じゃないよね。顔もごついし。」 「誰がごついんだよ。ほっとけよ。」 俺は切ない気持ちを顔全体で表現しようとしたが、何分この顔だ。少し拗ねたブルドッグみたいな顔にしかならなかった。 いやいや、これはブルドッグに失礼だな、心から謝ります。 「ごめんごめん。全部好きだから、怒んないでよ。」 岸は俺を確認しようと手をばたばたさせ、俺との距離を測ろうとした。そんなところにはいないぞ。お前の近くにもういるんだよ。 俺は岸の両手をしっかりと掴み、手の力がなくなると同時にゆっくりと自分の胸に引き寄せた。 「帰らないでね。俺一人になっちゃうし。」 「うん、帰らないよ。」 「帰らないなら、していいよ。」 「何をしてもいいのかな?」 「もっと、触っていいよ。」 いつもより積極的な岸に大歓迎の気持ちではあるが、そろそろ俺の理性も限界にきているのがわかった。 「いや、今日はもうこれでおしまい。止まんなくなるから。」 「止まんなくていいよ。俺目見えないんだし。」 「それ全然関係ねえだろ。」 「でも、これってある意味目隠ししてるみたいだね。」 「お前何処でそんなプ…いや、いいわ。」 岸は純粋で鈍感で、その上好奇心旺盛だ。何故だか色々なことが心配になってきて、岸を少しだけ体から離してから、その上半身を下から上へそっと眺めた。 「澤ちゃん、もうちょっと近くに来て。呼吸聞かせて。」 「あ、うん。」 俺はもう一度岸を抱き締めた。少しずつ岸の体が熱くなっていくのがわかって、その事実だけで俺の体温はすぐに上昇した。
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