温度

7/7
前へ
/7ページ
次へ
「お前さ、詩書けるんじゃねえの。」 「え、何で。」 「“呼吸聞かせて”ってあんま言わなくないか。声とか、言葉とか、聞かせるんだし。」 「呼吸を聞きたいんだよ、澤ちゃんが傍にいるってわかるから。」 「そっか。わかった。」 「唇、触ってよ。さっきみたいにさ、下から上になぞってよ。」 「何かお前…」 「なあに。」 「点字の官能小説とか置いてねえだろうな。」 「どうでしょうか。」 本棚には無数の本がある。ここは元々岸の兄貴の部屋で、空気がいいからとの理由で岸はこの部屋をよく使っている。この中にあるのか、その官能小説が。あったとしても、俺はまだ勉強中だし絶対読めないだろうな。 「まあ、でも、今の表現はあるっちゃあるか。」 俺は自分自身を納得させるように岸の頭をさらさらと撫でた。 「早く。澤ちゃんの指の熱が欲しい。」 今の録音したいから、後でもう一回言ってくれないかな。 「はいはい。指冷たいからびっくりすんなよ。」 「すぐにあったまるから大丈夫。」 澤と岸の時間は、こうしてゆっくりまったり過ぎていくのでありました。 fin.
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加