第1章

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 そういう環境は、香城にとっても幸運だった。 背徳感や差別感による精神的苦痛に、ほぼフリーでいられたからだ。 疑う事無く同性との交際がヘテロと同様に普通で、だから、結婚も当然の選択肢の一つだった。  恋人のエリアスとは5年の付き合いで、3年同棲した。卒業したら結婚したいと言われていた。  彼は、もともとへテロだった。それを、香城に熱心に口説かれて、そういう関係になったから結婚という「けじめ」を欲していたんだろう。  なぜなら、香城が浮気屋だからだ。  一度目、二度目は許したエリアスだったが、三度目は「こんなんじゃ、結婚しても幸せになれない」と関係の解消を迫られた。香城は別れたくなかった。 『一番愛してるのは、君なんだ』 『一番って何だよ、唯一だろ? そうじゃないなら別れてくれ!』  ゲイもヘテロも、痴話喧嘩は同じだ。エリアスは出て行った。香城が大学を卒業しドイツを発ったのは、後悔からだった。エリアスが他の男とデートしているのなんかに出くわしたくなかった。  振られて一年。 エリアスが男と結婚したと両親からのメールが届いたのは、一週間前。彼らはエリアスを気に入っていたから、不届きな息子にちょっと恨みがましい文面だった。エリアスはいい子だったのに、と。
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