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そういう環境は、香城にとっても幸運だった。
背徳感や差別感による精神的苦痛に、ほぼフリーでいられたからだ。
疑う事無く同性との交際がヘテロと同様に普通で、だから、結婚も当然の選択肢の一つだった。
恋人のエリアスとは5年の付き合いで、3年同棲した。卒業したら結婚したいと言われていた。
彼は、もともとへテロだった。それを、香城に熱心に口説かれて、そういう関係になったから結婚という「けじめ」を欲していたんだろう。
なぜなら、香城が浮気屋だからだ。
一度目、二度目は許したエリアスだったが、三度目は「こんなんじゃ、結婚しても幸せになれない」と関係の解消を迫られた。香城は別れたくなかった。
『一番愛してるのは、君なんだ』
『一番って何だよ、唯一だろ? そうじゃないなら別れてくれ!』
ゲイもヘテロも、痴話喧嘩は同じだ。エリアスは出て行った。香城が大学を卒業しドイツを発ったのは、後悔からだった。エリアスが他の男とデートしているのなんかに出くわしたくなかった。
振られて一年。
エリアスが男と結婚したと両親からのメールが届いたのは、一週間前。彼らはエリアスを気に入っていたから、不届きな息子にちょっと恨みがましい文面だった。エリアスはいい子だったのに、と。
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