第1章

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 大江天明(おおえ たかあき)は、怖い。  顔は甘く端正で人目を引くが、目力のある切れ長の瞳に凄まれると、日本人には難解とされる終末観が瞬く間に理解できるくらい、怖い。仕事のミスには容赦なく怒号が飛んで、その凄まじさは闇夜を切り裂く雷が可愛くみえるくらいだ。だが、そんな外向的な叱責は、比較すれば少ない。つまり、大江天明は目が凶器で、獲物の心理を切り刻んで殺すタイプなのだ。  普段はないのに、眉間のシワがあっという間に「まさか」と言うほどに深く刻まれて、美貌からして涼やかだった筈の瞳に残虐な光が点る。魔王が吐く言葉の禍々しさに震え上がった哀れな獲物は、大江に牙が生えてる幻覚が見える。  しかも、のたまう見解が理路整然・順理成章・首尾一貫としていて、やり込められる方にしたらぐうの音も出ないから、恐い上に「やっかい」だ。  それでも、ろくすっぽ仕事が出来ないのなら会社のお荷物と適当に扱えるが、戦中派の社長が一代で築き上げた社運を任せるくらい、特上のインテリジェンスと行動力の逸材ときている。 「能ある鷹は爪を隠す」と言うが、大江の場合、隠していても柔らかでしなやかな羽毛(みてくれ)の下から「凶器」が透けて見えてしまうのだ。  その切れ味は鮮やかで、「波泳ぎ兼光」の逸話に匹敵する。河に逃げ込んだ敵の背中を斬っても対岸に泳ぎ着くまで気付かせない、というものだ。無論、まっぷたつの残骸が川岸を汚す事になる。 残骸とならずに過ごしている社員などいないだろう。のんびりとした学生生活の延長が実社会でも可能だと高を括っていた部下を、いや、上層部までもを戦々恐々とさせる存在なのだ。
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