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翌日。
渡辺と美香の機転で、香城の告白騒ぎは酒のせいになった。酔って、言うべき相手を取り違えただけ。そして、なぜだか解らないが、その相手が美香という事になっている。さらに付け足せば、香城は美香にフラれているらしい。
香城の記憶は、途中から途切れている。当然といえば当然だ。あんなに酒を飲んだのは暫くぶりだった。たぶん酔っている最中、自分は記憶の中で溺者のように懸命に過去に縋りついていたのだ。それは、分かっている。そうなってしまった原因があるからだ。
「おっ、香城、ここにいたのか」
香城の落ち込んだ肩を叩いたのは、渡辺だった。
雨続きで気温が低かった春の、久し振りの晴れ間に渡辺の爽やかな笑顔が眩しい。香城を一人前の営業に育てる教育係りだが、教え方は丁寧で、優しい。サッカー好きなのも、好きな映画が同じなのも、帰国子女の香城にしたら馬があう貴重な存在だ。だから、大江がいなければ渡辺に惹かれていたかもしれない、と日頃、思っているのは事実だ。
「先輩……?」
「いや、お局がさ、お前がしょぼくれてたとか言ってたから」
渡辺は温かい缶コーヒーを香城に渡すと、「横、いいか?」と訊いてから腰を降ろした。その時に渡辺の袖が自分の腕に触った時、香城は少しドキリとした。渡辺の体温が彼の優しさを伝えてきたように思えたからだ。
優しくて、礼儀正しくて、ハンサムな渡辺。彼に対して色恋の感情が全くゼロと言ったら、嘘だ。だから、自分の邪な気持ちはひた隠しにするしかないと香城は思っている。
(あぁ、でも、どうして俺は、ノンケばっかり好きになるんだろう。だから、その代償が大きくなるんだよな……)
香城が荒れた原因は、それだった。元・恋人が結婚したのだ。
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