第1章

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  結婚、そう、同性婚だ。  ドイツにいたら当たり前というには語弊があるが、特別な事ではなかった。香城も、いずれはと思っていた。  香城が自分のセクシュアリティーの自覚をしたのは結構早くて、小学生の頃からだった。当然、両親は一人息子の将来を案じたわけだが、父親の仕事で家族がドイツに住む事が彼らの意識改革となったのだった。  イギリスやドイツのように男女の人権が完全同等という精神下では、ゲイも一個人の権利を持つことに何ら禁忌も嫌悪もない、という市民意識は表向きに確立している。  もちろん、人種差別がいつまでもなくならないように、ゲイ・レズに極端な嫌悪を持つ人々は存在するが、数学的な見地からすれば、そういう反対派も該当者と同じ割合でこの世には存在している。  だから、ゲイでも仕方ないみたいな周囲の感覚に流されるように、両親も「息子がゲイ」という事実を受け入れるにあたって、日本にいるより葛藤が少なかったのかもしれない。  高校生になった香城から初めてボーイフレンドを紹介された時は、覚悟はしていたものの想像以上の衝撃に固まっていた両親。それが、大学生になった香城が同棲をするようになると、相手の家族ともクリスマスに食事をするくらい息子の恋愛に対して「普通」になっていた。
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