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気持ちはどんよりしたまま、辿り着いたのは、
『飴玉』
と、書かれた暖簾を掲げている小料理屋。
涙に濡れた目を擦って、私はその店に向かって意を決するように歩き出す。
すると小料理屋の入り口である格子戸がタイミングよく開いて、数人の男性が店から出て来た。
そのうちの一人が振り返って言う。
「今日はおおきに! 初めて来たけど、料理は美味いし、雪子ママは美人なうえに、話が面白くてほんま楽しかったよ。また寄らさせてもらうわ!」
関西弁の男の顔は見えない。だが、店の奥から出てきた着物姿の女性が、深々と男性にお辞儀をする。
「ありがとうございます!どうぞこれからもご贔屓にしてくださいね」
満面の笑みを浮かべる雪子ママと呼ばれる女性。
「では、皆様、明日もいいことがあるといいですね」
そう言ってお客さんを見送った後、私の方へゆっくりと振り向く。
「あら? 晶? 」
私に気づいて、一瞬は驚いた顔になったが、私の苦笑いに気づいたのか……
「おかえり」
と言ってパッと明るい笑みを私に向けた。
私はまだ苦笑いを残したまま言う。
「……ただいま……お母さん」
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