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ーーーそう、この女性は私の母であり、小料理屋『飴玉』は私の家だ。
家に帰って来た私の顔をじっと見つめた小料理屋の女将である母は
「御飯、食べたの?」
「ううん……」
首を横に振る私を見た。
「じゃあ、御飯を用意するね」
満面の笑みを浮かべた母は、店の暖簾を外し始めた。
「え? お母さん? 店をもう閉めるの?」
「そうよ。 店にはお客さんも居ないからね」
「ええーー? お客さんがこの時間に居ないって、珍しいんじゃないの?」
「そうね...さっきまでは文具屋の鉛筆堂さんも居たんだけどね。鉛筆堂さんが帰ってから直ぐに、今の一見さんも帰ってしまって…そうしたら、お客さんが誰も居なくなってしまったのよ」
「そうなんだ……」
お店が閑散としてるなんて珍しいと思っていたのだけど、母は気に留めないような顔で暖簾を片付けて、店の中に入った。
そしてカウンターの中に入ってから、母は手早く私の夕ご飯、まかない飯を用意し始めた。
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