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私はカウンター席に座り、そんな母の姿を見つめながら言う。
「ねぇ...最近、お店……暇なの?」
「そんな事ないわよ。今日はたまたまお客さんが少なかっただけよ」
そう言って、御飯を茶碗によそって、味噌汁と小鉢に入った肉じゃがを私の前に置く。
「それに、今日は二日分ぐらいの売り上げになったから、心配しなくていいわよ」
「ええ?なんで?……」
驚く私に母はニンマリと笑って言う。
「今の一見さんがね、沢山支払ってくれたのよ。さすが人気ブランド【Xi'n】のデザイナーさんよねぇ。お店の売り上げが十分、潤ったわ」
「ええっ?! ちょっと待って? 【Xi'n】のデザイナーって……嘘おっ!あの神威 遊なの?」
高級ファッションブランドの人気デザイナー、神威 遊がウチに来るなんて!
「ちょっ、お母さん!サイン、貰ってる?」
「貰ってないわよ」
けらけらと笑う母に、私は口を尖らせて言う。
「えー? 残念!」
そんな私を見た母は少し苦笑いをして、呆れたような声を出した。
「なんだ……失恋したと思ったら、案外元気じゃないの」
「ぶほっ!」
思わず味噌汁を吹き出した。
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