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「黒田課長が外勤って...珍しいですね」
沙耶ちゃんがそう呟くように言ったから、私は「そうね...」と淡々と切り返した。
沙耶ちゃんはもう視線を要さんに向けていなかった。
真っ直ぐに前を見つめていて。
私は可愛らしい彼女の横顔を見つめる。
ーーーさっき、要さんは沙耶に微笑んでいた。
その光景を思い出せば、ジクっとした小さな痛みが湧き上がった。
湧き上がった痛みは、ジクジクと広がって。
痛いと声に出せない私は
「沙耶ちゃん...」
と言いかけてーーーやめた。
聞いてどうする。
もう吹っ切れたはずなのだから、あえて傷口を、せっかく出来た瘡蓋(かさぶた)を剥がす必要なんて、何処にもない。
ジクジクした痛みを大きくする必要はないんだと言い聞かせる。
そして私は取り繕ったような作り笑いを沙耶ちゃんに向ける
「なんでもないの」ーーーーと。
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