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暮れなずむ夏の日
暑い空気がほんの少し和らいで、迫り来る夕闇が、キラキラと光るイルミネーションを眩しくする時間。
「もう、そろそろ帰ろうか?」
一日中、はしゃいだ5才児の姫は、まだまだ体力が有り余っているようで、
「え~。まだ乗りたいのが有るもん!」
と、上下に揺れながら、くるくる回る飛行機型の乗り物を指差した。
普段、構ってやれない姫の申し出を無下にもできず、やれやれ……と思いながら
「これで最後な。あんまり遅くなるとママが心配するから」
少し剥れながらも「ハイハイ」と。
少し大人びたように澄ました二度返事をする姫の小さな手が、僕を引っ張っていく。
二人乗りの小さな空間。
安全ベルトもない飛行機に、縦に並んで乗り込むと、姫を後ろから抱き締めるように包んだ。
「んもぉ~パパ!大丈夫だよ。まだお空に飛んでないんだし」
少し、鬱陶しそうに顔をしかめて僕を見るかわいい姫に、危ないから前向いてて、と柔らかく笑う。
ふわりと舞い上がった飛行機は、ゆっくりと回りながら徐々に加速し上下に揺れ出す。
生意気リップの姫は、僕の存在など何処かへ飛んでしまったかのように、楽しい声をあげる。
まるで、10年前の君のように……
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