第一章 流々へ

45/48
前へ
/330ページ
次へ
「和弥」  東雲は、 和弥の座る椅子の近くまで走ってきていた。 和弥も囲まれていたスクリーンを、 天井に戻した。 「分かっている」  和弥は、 携帯電話を抱きしめるようにうずくまった。 「流々、 宇宙空間は暗いのかもしれない。 流々、 俺も、何度も思う。 暗い宇宙から人間の住む地上に着くと嬉しいよ。 凄く嬉しくて、 もう何処にも行きたくないと思う事もあった」  でも、再び宇宙空間に出てしまうのだ。 「和弥、 流々、寒くて、眠い」  生命反応は動かなかった、 皆、流々と同じ暗闇に居るのかもしれない。 「俺の故郷に行こう、流々。 自転車で、 草原を越えよう」 「うん」  流々の声が、 ノイズに消されてゆく。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

80人が本棚に入れています
本棚に追加