第二章 別れは,はじまりのために

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 カプスの進化について、 瀬戸内が論文を珍しく書き、 人類の進化の過程の一部だと発表してくれた。 瀬戸内は機械の天才でありながら、 出身は地球で、 生物進化の権威の教授の息子だった。 つくづく恩人なのだが、 和弥も東雲も、 何かと用事を言われ手伝わされていたので恩義を余り感じていなかった。 「立ち話も何ですから、 向こうでゆっくり、話しましょう」  ゆっくりと、言われて連れて来られたのが、 司令室だった。 微塵もゆっくりとした気分にはならない。 けれど、 周囲がきびきびと働く中で、 のんびりするのが瀬戸内のくつろぎのようだった。 中央部分の椅子に座らされると、コーヒーを勧められた。 「カプスといい、出現といい。 分野外と言いながら、 君達は生命の常識を覆しますね」  面白そうに笑う瀬戸内だったが、 和弥はそもそも生命の常識を知らない。 覆したかどうかは分からない。 瀬戸内、和弥、東雲意外は座る間もなく動くホールでは、 コーヒーの味も薄く感じた。 「常識という曖昧なものはありません」  東雲は、真面目に瀬戸内に回答していた。 東雲は、親の家業を継ぐかのように物理学に進み始めたが、 時折、 新製品だと言って新システムを発表していた。 基本的には、器用な人間のようだった。 「そうだね、君達には常識というものが曖昧に映るかもしれない。 常識とは先人が見つけた結果とも思います。 君達は進むばかりで、 結果が後に付いてきた」
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