第二章 別れは,はじまりのために

20/20
前へ
/330ページ
次へ
 スクリーンでは、 観測用の機材が設置され、 多角的な映像が映し出されていた。 カプスから持ってきた土に似た物質は、 電気的に変化する土だった。 人間の神経も電気に近い現象のため、 土の近くに人間がいると腕になったり足になったり妙な変化を起こす。 他の動物でも変化するが、 人間の場合が一番、 妙な変化を巻き起こす。 医療用に研究チームも動いている物質で、 長く生き物の一部になっていると、 そのまま融合してしまう特徴もあった。 腕や足の実験では、 足を付けた動物は、 何の違和感もなく通常の足と見分けも付かない状態に変化してしまっていた。  和弥と、東雲の会話が止まり、 スクリーンを凝視する。 スクリーンの中では、何の変化も認められない。 しかし、 機材の波形が揺れ始めていた。 「値が変化した」  何年も待ち続けた出現だった。 僅かな値の変化も、見逃すことは無かった。 岩だけだった地面に、緑がかった生命体が生え始めた。 それは牧草のような草になり、 杉のような木になった。 「人間の出現とは、程遠い。 食料でも積んでいたのか?」  一本の木が、林になり深い森を形成した。 やがて、心臓の音が聞こえ始めた。 土の塊が動き始め、 手の指が地面を抜け出すかのようにもがいていた。 そして、顔が現れた。 「人間として定着するためには、時間を要する。 その長い時間、 土として生きていられるか疑問だな」  東雲は、 土の塊が人の形になっても、 人間になれる可能性は少ないと計算していた。 和弥は、手元に僅かに土を持っていた。 カプセルに入った土は、 サラリとした茶色い粉のようだった。 「でも、可能性はゼロではない」  スクリーンに長い手足が出現した。 茶色の泥人形だったが、その姿は流々に酷似している。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加