第1章

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「怪我人は下がってな!……深々と降り積もれ、全てを凍らす白き華よ……」 ヴィオレットはあしらうように告げ、その後真面目に詠唱を始め。 「…貫け、我が敵を…凍て付く刃よ…」 海も続くかのように静かに詠唱を始め。 「スノウシンク!」 「アイシクルソード!」 ヴィオレットと海の技は同時に放たれてヴィントへと向かった。 だがヴィントは動じず笛を回した。 「…我を守りたまえ、神へと続く、天使の声……アヴェマリア」 魔法が放たれると同時に、天使祝詞が流れ。 「ブラウ!…光よ…全て照らせし光よ……我に治癒術を授けん……キュア!」 心配そうにブラウの名を呼び、椿は詠唱して光術を使って傷を癒した。 「有難う、椿ちゃん…助かったよ」 「…あんまり無茶しないで」 軽く笑うブラウに、少し悲しげに椿は言った。 誰かが傷つくのは見たくない。 誰かを傷付けたくもない。 だけど、この戦いは逃れられない。 【カミサマ】を倒さなければいけないのだから。 だから、今は耐えなければいけない。 わかってる。 わかってる。 わかってる、けど。 「……ごめん、心配かけたね」 「…無事ならいいの」 いつの間にか流れていた涙を拭い、椿は微笑んだ。 何としても、無事に終わらせたい。 それだけを祈って。 「椿ちゃん…」 ブラウはそんな椿の名を優しく呼んだ。 「こらぁ!其処!イチャ付いてないで手伝いなさいよ!!」 横槍をいれたのはロートだ。 ブラウと椿はびくっとしたように焦る。 「い、イチャ付いてなんて…!」 「そ、そうですよ!あたしは別に…!」 「良いから早く手伝いなさいっての!」 「あ、由佳里!あそこ!!」 ゲルプが何かに気付いたように由佳里に言う。 「…間に合って…!」 霧に隠れていたヴィントが一瞬見え、其処へ由佳里が薬品を投げ付ける。 反応は無く、辺りは静かになり。 「…やったのかな?」 「……怖いぐらい、静かね…」 「嵐の前の静けさ、ってやつじゃない事を祈るだけだけど…」 海が言い、波が震え、由佳里が冷静に言う。 これで終わってくれれば――誰もがそう思っていた。 ――だがその願い空しく、徐々に霧が晴れていき。 霧の中で無傷で立ち尽くすヴィントがおり。 「…まさか、一つも効いてないってのか!?」 流石のブラウも驚きを隠せないでいた。 あれだけ攻撃しても無駄なのか、と。
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