1:月明かりの下で

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 ちょっと待てええ! とりあえず瀞は、動かせない体の内で力の限り叫んだ。  現実には声は出なかったが、抗議の意思自体はちゃんと、体を動かす「紫音」に届いたらしい。青年の腕の中に納まったまま、はて? と首を傾げる。 「あれ? もう契約は終わったけど、お前、何か不満なの?」  契約ってどういうことだ。叫ばなくても紫音には聞こえていた。 「最初に言ったじゃん? お前の体を、オレに売れって」  それでいいって言ったじゃん、と心から不思議そうにしている。瀞はただ、詐欺だ! と怒る。  まさかそれが言葉通りに、「体を売る」ことだと誰が思うのだろう。「ツキモノ」という仕事も、こうして紫音に体を使わせること自体なのか。人間になりたい化け物に愛の手を、とはそういう意味だったらしい。  そして今から、銀髪の青年、烙鍍が住む家に居候するという。家付きとはそのことで、生えた羽はとり憑いた紫音のものというわけだった。 「後の仕事はオレがやるし、お前はゆっくりしてればいいよ。何が不満なの?」  死神を名乗った紫音は、月光の天使。つまり光であり実体を持たないモノだが、烙鍍と共に生きると望んだために、とり憑くことができる稀少な宿命の人間を探していたというのだ。  烙鍍が何者かは知らないが、先刻からずっと、瀞の頭を愛しげに撫で撫でしている。瀞が一番我慢できない点はそこだった。  やめやめ、やめます! おれ、男といちゃいちゃしたくないんです! と差し迫った思いを伝えると、紫音は更に、あれ? と、大きく首を傾げた。 「え? だって、お前……」  そこで紫音は、ワケありの瀞が幸せを掴み難い理由を、あっさり口にする。 「だってお前、女の子でしょ?」
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