1人が本棚に入れています
本棚に追加
零の両親は玖堂家で働いている。その縁は中学生時代からといい、女当主の厚意で何とか地球に住処をもらっているに過ぎない。
弟が行方不明になるなど好き勝手をしているので、零も独立することにした。本当は両親の故郷の方が零の性に合うのだが、異世界の化け物な両親はこの地球生活に拘っている。
「それでお前、この街を離れてやってく自信はあるのか。個人企業は大半しぬ時代だぞ」
キャリーケースから響く声。持ち手の下の方に括りつけた真っ白なウサギのぬいぐるみ。これから都会に行く零のただ一人の相棒は、零から過去に奪われた「魂」だった。
「うるさい、ゼロ。私に指図するな」
「お前相変わらず、感情と本音だけで動くな。頼むからそろそろ、オレがいなくても理性を身につけてくれ」
「無理言うなよ。私をそうしたのはあのバカ叔母だ」
幼い頃からお気に入りで、だからこそ零の魂を宿す依り代となった白兎のぬいぐるみ。どうしてそうされたか全く覚えていないが、零の叔母も異世界の化け物だ。大事な長女の魂を奪われた親は叔母とは仲違い中で、姿を隠した叔母の思惑はわからないという。
理性や精神の根本である魂を失くした零は、両親曰く、本能だけで生きる心霊生物らしい。ぬいぐるみに宿ったゼロが、こうして何かと軌道修正してくれなければ、いずれ犯罪者にでもなっていただろう。
「まあ、オレはお前の『ツキモノ』だからな。地獄の果てまで付き合うよ、零」
魂だけのくせに、ともすれば零より生き物らしく見えるゼロ。どうせ元は自分なのに、いちいち何を言うのかと零は思う。
最初のコメントを投稿しよう!