ツキモノ -白- ✾表紙:Amane様

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 魂がなくても人は生きていける。一年前に魂を手放したから、彼女には断言できた。  この地球は本当に悪魔だらけだ。春日(かすが)(れい)はそう思ったから、「ツキモノ」と銘打つホワイトな便利屋を起業することにした。  異世界出身で生活力に乏しい両親。長くその金づるな玖堂(くどう)家に融資を頼みに行くついでに、玖堂家の養女になった従妹にも会った。従妹は養女になって日が浅く、実の親の元を去った経緯も明るくはない。  玖堂家の一角の「橘診療所」は、数多の異世界の中継地点だ。診療所の院長が零の叔父で、今では叔母は不在、叔父はすっかり変わってしまい、従妹一家がいつからそうも歪んだのか地球暮らしの零にはわからない。 「くっそ、鷹野(たかの)の魔女が……咲杳(さくら)に先に手ぇ付けやがって」  痛かったのは、従妹という人材を既に旧知の魔女に奪われていた。  様々な依頼を集める「ツキモノ」創業者となる零は、実働する気はこれっぽっちもない。弟が引き連れていたヤンキー連中が零を慕っているので、躾け直して働かせる予定だ。  引きこもりでありたい故に起業する零に、友人などほとんどいない。玖堂家から飛び級の学費を全て援助してもらえたほどに頭脳は優秀らしいので、成人直前でありながら院卒の身だ。それでも零には、不治の病があった――どうしても直せない人間嫌いが。
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