四季の国

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昔々のお話 ここはあまり多くの人に知られていない 秘境と呼ばれるような 山と森に囲まれた 高原に街をおく小さな国 一年を通して 近くの国や地域にたいして 比較的温暖な気候で過ごしやすい 楽園のような場所 温暖な気候といっても 秋には紅葉が広がり 冬には雪も降り積もり 春には梅や桜をはじめ多くの花がいっせいにめぶき 夏には太陽がさんさんと輝いて 蝉が鳴き向日葵が笑う 季節のうつろいにその姿を変幻自在に添わせる 四季の国 ところがその年は様子が違う 歳の暮れの 例年ならば雪の積もる真冬の時分 雪のかわりに赤い粉が降り始め いきなり桜のつぼみがつき大きくなり 冬眠していたはずのへびやくまや りすやかえるがびっくりしてあわて起き 気温がぐんぐん上昇して わかばが生い茂り うぐいすやめじろやほおじろも思い出したように鳴き始め 桜も梅も桃も李もいっせいに花を咲かし 一瞬にして あたり一面春模様に覆われた 人間たちはこの大春日和におおいに浮かれていたそうな ことの重大さもわからずに ただただ 目の前に起こった異変を 神様からの贈り物だとか 誰か偉い人が起こした奇跡だとか てんでけんとう違いなことを言っては 酒を呑んだり踊り散らして この天変地異を毎日毎晩祝い狂っていたそうな 人間以外の動物と植物 山や川や大地や森は この狂った世界の影響を敏感に受け その異常に必死に闘いを挑んでいたが そのことに気づくものは少なく 国中の者がその変化に気付いたとき 残念ながらすでに 人の手では取り返しのつかないくらいに この世界は崩れ始めていたそうな
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