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幸宏の郷里から東京に着いたふたりに待っていたのはふたたびの文通の日々だった。
幸子が郷里へ戻ったからだ。
幸宏と二人、上京してすぐのことだった。
家族と向き合ってくると言った。
「あなたが私を招いてくれたように、私もあなたを家に招待したいの。だから、待っていてくれる?」
幸宏はただ黙って頷き、彼女を送り出した。
見送るホームに立つ彼と、列車の開け放たれた窓の向こうにいる彼女は見つめ合う。
「またしばらく会えなくなるのかい?」と憎まれ口を叩いて、幸宏はぼつりと言う。「寂しいよ」
「私だって……おんなじ……」彼女の声が震えた。
「僕にできることがあったら何でも相談して」
「ええ」
「困った時も」
「連絡する」
「助けて欲しい時にも。必ず連絡して。すぐ駆けつけるから。僕がいるのを忘れないで」
その時、発車を告げるベルが鳴る。彼女の瞳に映る幸宏の像が涙にぼやけて流れていく。
「もし……どうしても親と和解できなかったら。私、家出してくる。まっ先にあなたのところへ行く。それでも……そんな私でもお嫁さんにしてくれる?」
「もちろん」即答し、幸宏はいつものように茶目っ気を込めて付け加えた。
「家出するなら、今すぐでもいいんじゃない?」
「……もう」
怒ったように答える、幸子の涙声は汽笛にかき消された。
ゆっくり走り出す車両の窓から、彼女は身を乗り出し、いつまでも手を振っていた。
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