【13】りんご実る里

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晩秋も終わり、外套が必要になった頃に、痛めた肩がしくしくと痛むようになった。右腕も、ギプスは外れていたが相変わらずLの字の角度が90度から鈍角になった程度でまだまっすぐ伸ばすことができない。 具合が良くない、と一度彰宏に電話で茶飲み話をするようなノリで相談した。「分野外だからよくわからないけど、一度診てもらったらどうだ」と知り合いの外科医を紹介された。ありがたいことに従兄の知り合いは白鳳大学の付属病院に勤務していた。診察と検査をして、結果が出た。 医師の見立てはこうだった。 腕はいずれ伸びるだろうが、肩はもしかしたら一生、使い物にならないかもしれない。受傷直後の処置が良くなかった、関節が正しい場所にはまっていなかった、外科手術を受ければあるいは、好転する可能性はあるだろうが、それでも以前の肩に戻せる保障はない。どうする、と問われた。 再度痛い思いをし、手術を受け、機能快復の訓練を受けるとなると、また何ヶ月も無駄に時間を空費する。学生だったころは考えもつかなかったことだが、いざ社会人になると些細な怪我や病気も煩わしいものだ。 日常生活に支障はないのかと問うと、まったくない、曲がっている腕もじきに伸びる。訓練をすれば期間は短縮できるが、器械体操ができるかというとどうだろうか、との答えだった。 これも身から出たサビというやつだ。 考えさせてほしい、とその場は告げて帰った。 道中、幸子に検査したことを告げなければよかったと考えた。彼女は治りの悪さを心配してくれていた。なのに良い結果を伝えられない。 足取り重く自宅に帰ると玄関前には木箱に麻縄でぐるぐる巻きにされた小包が置かれていた。木箱には『りんご』の文字が焼き印で四面に押されている。 「郵便屋さんは、不用心だなあ」 苦笑しつつ宛名を見た。送り主は幸子だった。
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