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いた。
頭をスカーフでゆるく覆い、寒さで頬をりんごみたいに真っ赤にして立つ彼女の姿に、彼の胸は熱く騒ぐ。
いらっしゃい、と口元が動いていた。
やっと会えた。あるのは悦びだけだ、嬉しいと胸が騒ぐ。
君も――同じだったんだね。
早足で列車から下り、持った荷物を取り落として彼女の元へ走った、人目を気にする余裕はなかった。目を丸くしている彼女へ右手を伸ばし、抱きしめていた。
「武君、人が見てる」と小さく抗議する声がする。けれどかまったことじゃなかった。
添えるように背中回した右腕に、「もう、大丈夫なの?」と問う。
「あまり大丈夫じゃない」少し顔をしかめて素直に答える。「でも、今は特別」
「仕方ない人ね」と言って彼女は微笑み、そっと右肩に触れ、撫でた。
外套の上からでも伝わる、その撫で方は優しくいたわりのあるものだった。
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