第1章

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上京したての頃は、誰にも心を開けずにいた私だが、夜のバイトがきっかけで視野が広がり、経験値が上がったと思う。 銀座でのスカウトがなかったら、私は今頃どうしていただろう。 いままで避けてきた家族の話題だが、極少ない心を開いた人には話せるようになった。 こうして多少柔軟になれたのは、銀座のバイトで出会った人たちのお陰だと思っている。 ただ、恋愛に対しては未だ臆病なまま。 言葉に出さないまでも空気で感じ取るのが染み付いてしまった私は、自然に身分を弁えるようになった。 片親で一人っ子。 絶縁状態の親子関係。 常に付きまとう不安。 迷惑を掛けたくない。 困った顔を見たくない。 好きになる感情をいつからかセーブするようになってしまった。 別れが怖いので、恋人というはっきりした定義は作らずにいた。 傷つきたくないが故の、自己防衛本能が働いた結果がそうさせたのだと思う。
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