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「ん?つーんってなんの話しだい?」
タルドレム王子が目を細め楽しそうに聞いてきた。
おっと、文月にとって意外と好印象。フレンドリーな王子様だな。
「淑女の秘密です。どうぞ詮索はお控えください」
リグロルが咄嗟に切り返す。
「わかった、そうしよう」
王子は楽しそうに答えた後、少しまじめな顔になり椅子から立ち上がった。テーブルをゆっくりとまわり文月の正面に立った。流石に王族だけあって本人は意識していないだろうが威圧感があり、思わず文月は後ろに下がりたくなる。そんな文月をリグロルがしっかりと支えた。
「ラスクニア王国の王子、タルドレムだ」
説得力があった。
なるほど王子だと文月は感じる。たとえこの人がぼろを纏っていても今の名乗りを聞けばほとんどの人が王子だと認めるだろう。
「立ったままでは辛いだろうし。まずは席に着こうか」
文月がまだリグロルに支えられているのを見た王子がすぐに着席を促してくれた。
リグロルが文月を椅子に座らせようと歩き出した。
「私が……いや、俺がエスコートしよう」
タルドレム王子がそう言って文月に近づき、リグロルもすんなりとタルドレム王子に文月を受け渡した。
文月の後ろに回り背中側から左手を取り自然と腰に手を回す。文月の体の向きが逆ならダンスでも始まりそうな体勢だ。
以外にも王子のサポートは上手く、文月はスムーズに椅子に着席させられた。
うわぁ、なんだか扱いに慣れてるなぁと文月は思う。
「ぁりがとぅ……ござぃます……」
「気にしなくていいよ」
小さな声ではあったが文月がお礼を述べると王子はくすっと笑いながら応えてくれた。
王子が自分の座っていた席に戻ると同時にリグロルが王子の前に新しいお茶をだす。カートを押してきて文月の前にもお茶を出した。
「それでは、私は隣室に控えますので御用の際はお呼び下さい」
「ちょっ?リグロル!?」
これはあれですか?!それでは我々は退散して後は若い人たちに、とかいうヤツですか?!
お手本のようなお辞儀をしてリグロルは扉に向かう。部屋を出る際に文月に向かって声を出さずに『つーん』とやってみせた。
扉が静かに閉まった。
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