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ぽろぽろと文月の目から涙が溢れる。
元の世界の思い出と今まで我慢していた不満と不安が優しくされた所から噴出した。
お父さんが!お母さんが!妹が!友達が!学校が!部活が!勉強が!僕が!僕は!僕は殺された!
「ばかぁ!ばかぁ!ばかあ!!!」
タルドレム王子は文月が暴れられるように余裕を開けて大きく抱きしめた。
わぁわぁと泣き叫びながら文月はタルドレム王子の腕の中で彼を揺さぶり胸を肩を顔を拳で叩いた。
リグロルがノックも無しに室内に駆け込んできた。
王子はさっと片手を上げリグロルを制し退室するよう手を振る。リグロルは静かに退室する。
再びタルドレム王子は文月を大きく抱え込んだ。
その頃には文月は王子の胸元をきつく握り、顔をうずめて泣きじゃくっていた。
ゆっくりとタルドレム王子の腕の輪が小さくなってゆく。
文月の体に王子の腕がぴったりと重なる。ビクッと文月の体が震えたが、それをきっかけにしたように徐々に泣き声は小さくなっていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ご、ごめんな……」「謝るな」
文月はまだタルドレム王子の腕の中にいた。顔はうずめたままだが胸元を掴んでいた手は今は控えめにちょこんとつまんでいるだけだ。
「フミツキに非は無い。だから謝らなくていい」
「……」
「フミツキの持った怒りと悲しみは正当なものだ。謝罪の必要はない。フミツキは正しい」
「……でも、いっぱい叩きました」
ようやく文月はそっと顔を上げ王子を見上げる。思ったよりもタルドレム王子の頬は赤くなっていた。
自分の取った行動の結果に文月は青ざめる。
「ぁ!」
「気にすることは無い」
「でも!あの……手当てを」
「必要ないよ」
「そうだ!リグロルが治せるんです!呼んでください!」
「この痛みは俺が自分の力で全て受ける」
「……」
「他の力は不必要なんだ」
文月は両手をゆっくりと上げ、タルドレム王子の頬をそっと挟んだ。
「やっぱり……ごめんなさい」
「謝罪はするなって言ったろう」
文月はふるふると顔を振る。
「僕が……謝りたいんです」
「そうか、ではその謝罪は受け入れるよ」
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