第1章

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 一旦止まった文月の涙が再びぽろぽろと頬を伝わった。  全力で他人に怒りをぶつけたことなんて初めてだった。それを全て受け止めてもらったのも初めてだった。  タルドレム王子は指先で涙をぬぐってくれる。もう一度涙をぬぐってくれた。それでも溢れてくる涙を王子はハンカチを取り出しそっと文月の目元に交互に当ててくれた。  文月はタルドレム王子の頬に両手を置いたまま、こつんとおでこを王子の胸に当てた。  ゆっくりと王子の頬から手を離し腕を折りたたんだ。タルドレム王子はまだ文月を抱きしめたままだ。  しばらくそのままの姿勢でいた二人だったが、文月が大きく息を吸いゆっくり吐いて二人の時間は動き出した。 「あの、ありがとうございます」 「うん」 「えっと、もう、その……大丈夫です」  文月が王子の胸をちょっと押してその腕から逃れようとする。流石に男の腕の中にいつまでもいたいとは思わない。 「名残惜しいな」 「うっ、ふっ、むっ」  ぎゅっぎゅっぎゅっとタルドレム王子が三度、力を込めて抱きしめて文月の息が三回漏れた。  ぱっと王子が文月を開放し、にこっと笑った。  自分でも分からないが文月は恥ずかしくなり王子の笑顔に釣られて微笑みながらも視線は斜め下に外した。  タルドレム王子は文月をもう一度しっかりと椅子に座らせて自分も席に戻った。  すっかり冷えた紅茶が二人の前においてある。  席に着いた王子が文月を見つめ、もう一度にっこりと笑った。  やっぱり文月は恥ずかしくなり笑顔を返しながらも視線はうつむいた。 「フミツキ、ここの生活に何か不都合があれば言ってくれ。いや、不都合しかないかもしれないが可能な限り快適に過ごせるように努力する。俺にも多少だが権限がある。それを最大限使用してお前の障害を取り除く。わがままを言ってくれて構わない」 「はい、ありがとうございます」  けどなぁ……と文月は思う。  今文月が望むことは無理難題で、それを口にするのはタルドレム王子を困らせるだけだ。  自分の感情を受け止めてくれたタルドレム王子に更にそれを言うのは申し訳ないという気持ちが少なからず文月の中に芽生えていた。  タルドレム王子は表情には一切出していないが、内心かなり困っていた。  目の前の美少女の瞳に寂しさが宿っておりそれを隠そうとしているのが分かったからだ。
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