第1章

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 おそらく先ほど自分に向かって感情を吐露した事を気にしているのと、自分には叶えられないと分かっている望みを持っているからだと理解する。  そしてその望みを言わないのは、言うことによって王子が王子自身を責めるのだと文月が気づいてしまった事も分かった。  文月とタルドレム王子は同じ望みに気づきながらも結局その事は口にせずじまいだった。 「どうだ、フミツキ。俺が支えるから少し外を歩いてみないかい?」  タルドレム王子は自分を胸中で烈火のごとく罵倒しながら文月に明るく声をかける。 「外……ですか」 「そうだ。夕食まではまだ時間があるだろう。こちらに来てからこの部屋から出たかい?」  確かにこちらに呼び出されてからこの部屋を一歩も出ていない。勝手に軟禁状態の気分になっていたが別に行動の制限はされてないのだ。まぁ今は行動しようにも出来ないというのが実情だが。  文月は了承した。 「はい、タルドレム王子のご迷惑でなければ」 「よし、ではその格好では寒いな、何か羽織るものがあったほうが良い。あぁそれと、俺の事はタルドレムと呼んでくれないか」 「え?」 「タルドレム。王子はいいから」 「あ、はい分かりました」  まあ学年が上がって、クラス替えがあった時みたいなものかなと文月は思う。  最初は君付けやら苗字で呼び合うが親しくなれば名前を呼び捨てで呼び合い、あだ名で呼び合うようになるものだ。  ほぼ初対面に近い状態であれだけの醜態をさらしてしまったのだ。その相手に嫌われず仲良く振舞ってもらえるのは嬉しい。  タルドレムはサイドテーブルに置いてある鈴蘭のような格好をしたベルを指で軽く突いた。  ぴーん、という結構高い音が響きすぐにドアがノックされリグロルの声が聞こえた。 「お呼びでしょうか」 「呼んだ」  タルドレムが応えるとドアを開けリグロルが入ってきた。 「失礼します」 「フミツキと外に出るから寒くないようにして」 「畏まりました。ご用意いたします。ただ先ほど監視塔から連絡がありワイバーンが6匹ほど確認されておりますのでご注意ください」
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