私は悲しめないけど

2/8
前へ
/8ページ
次へ
それは真夏の昼下がりの出来事。 僕はずっと思いを馳せていた、同じ大学の女性をカフェテラスへと呼び出した。この時間は授業に出ている人が多いため、ここには僕と彼女だけしかいない。 人気のないカフェテラスへ呼び出すからには、もう何を伝えたいのかは理解しているのだろう。彼女はとても落ち着いている。 「君のことが好きだ。付き合ってくれ」 僕もなるべく冷静さを保ちながらそう伝えた。しかし彼女は、下を向いてコーヒーを一口飲んでいるだけだった。 沈黙が続く。僕は、ちゃんと告白できたよな…? 彼女の方をチラリと見ながら僕もコーヒーを飲む。そして、あっという間に空になってしまった。 壁に掛けられた柱時計の音だけが、やけに大きく響いている気がした。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加