第1章

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「ただいまーっと」 去年の4月から住み始めたアパートの二階、階段から一番離れた廊下の突き当たりにある204号室、その扉を開けながら誰ともなしに呟いた。 部屋に入るなり鞄を足元に放り投げ、テレビをつける。特に見たい番組があったわけではない、毎日の習慣みたいなものだ。 「あぁー腹減ったー…………」 チャンネルを適当に回し、気になるものも無かったのでニュース番組に落ち着けた後キッチンに向かう。 俺の記憶が正しければアレがまだ一つ残っていたはずだ。 膨らむ希望と空腹感、はやる気持ちを押さえつけ流し台下の扉を開く。 新品同様のまな板や鍋、フライパンなどが乱雑に詰め込まれており、アレの姿は見当たらない。 俺は調理器具の山に腕を突っ込み手探りでそれを探す。 「確かこの辺だったと思うんだけど…………お、あった!」 最近の小説とかでは往々にして料理のできる家庭的主人公が主流になっているらしいが、やはり出来ないやつは出来ないのである。 何せ引っ越し初日にカレーを作ったら鍋から凄まじい異臭が立ち込めるという大失敗に終わったほどである。
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