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「いいかい?」
その拳はシュウの髪を揺らす。紙一重でかわしたシュウは、柿谷の懐に潜り込み、軽く胸倉を掴んで引き寄せた。
「君達にはお別れを言うよ。君達がいたから、僕は強くなれた。それは役に立っているし、感謝している」
挑発にも取れるそれは、シュウの本心でもあった。不良達を纏め、抗争めいたことを繰り返した過去は、シュウを確実に強くした。
「僕は消えるよ。誠良高校は君の好きにすればいいさ。君の前に立ちふさがるのはこれで最後だ」
「何言って……!」
「だから、さよなら」
一方的な別れ。中指で弾いた柿谷の頭が後ろに仰け反り、そのまま意識を手放した。
ドサリと倒れる音を最後に、倉庫には再び静けさが戻る。剃り込み頭の荒い吐息以外、時が止まったかのようだ。
「ねぇ」
不意にかけられた声に、剃り込み頭は小さく悲鳴をあげる。怯え恐れるその姿はとても滑稽だったが、シュウにとってそれは最早過去。
興味は、尽きた。
「お金、貸してね」
返事は、聞こえない。ただ、剃り込み頭は震える手で財布を差し出す。声には出さない、精一杯の命乞いだった。
「ありがとう」
リユスはそれを、いつもの笑顔で受け取った。
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