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「君の裏切りはこれでチャラにしてあげる。これからは柿谷の下でがんばって」
ラウンドジップの財布を開けて、シュウは中身を確認する。紙幣が各1種類ずつ入っていたので、それを迷わず抜き取る。
「こっちは返すね」
「柊さん……あんた一体何者なんですか」
財布を受け取る剃り込み頭が震える声で絞り出した質問は、心から出た疑問だった。どう考えたって人間離れした動きに、不気味なほどに張り付いた笑顔。明らかに違う。以前の熱は感じない、が強さは以前の比ではなかった。
「僕かい?」
剃り込み頭は思う。熱を感じない理由は、冷めたからではない。
「僕は僕だよ、変わっちゃいない」
不良の世界なんかじゃ、彼の心は踊らない。
「じゃあね」
失禁する剃り込み頭に簡素な別れを告げたシュウは、そのまま背を向け出口を目指す。惜しむこともなく、悔やむこともなく、ただ一つの作業を終え淡々と彼は歩を進める。
近づいてくるシュウに、ぼうっとしていた慶佑と遥人は慌てて身を小さくする。2人はシュウの壮絶な力に、ただ茫然とするしかなかった。踏み込むべきでない世界を、2人は垣間見てしまった。
だが、2人はその世界から出るわけにはいかない。
シュウがこれから向かう先、帰る先は。
御堂海斗の家なのだから。
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