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「ただいま」
玄関が開かれる。鍵を開けてくれたカスミが先に戻り、その奥から薬局の袋をぶら下げたリユスが帰ってきた。
「おかえりー。すまんな、リユス」
「いいんだよ。体は動くかい?」
「それがさっぱり」
相変わらず身体はピクリとも動かない。リユスが家を出て30分と少し。そうすんなりと動いてくれるものでもないらしい。
「カスミさん、どうしたんだい?」
「え? あ……なんでもないわ」
「?」
カスミの様子を、リユスが訝しむ。カスミは少し、元気がなかった。
どうだろう。もしかしたら、話すべきではなかったのか。話して俺は何かを期待していたのか。カスミに要らないものを抱えさせただけなのか。
分からない。
申し訳なさだけが、残った気がする。
不意に、携帯が鳴った。
「ミドナ君のかい?」
「ああ、電話だ。すまん、耳に当ててもらっていいか」
そんな気持ちを押さえ込む。話してしまった。もう戻れない。
戻れないんだ。
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