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「息を吐くように、嘘をつくね」
リユスの言葉が、刺さる。いつからなのか。ウェストファリアに踏み込んでからか。平然と嘘をつき、誤魔化す。罪悪感は、驚くほど希薄になった。
「どうしろってんだよ」
出てくるのはそんな悪態。嘘をつく以外に、どうしろと言うのだ。本当のことを話せばいいのか。話して、それこそどうなるのか。
「どうしようもないね」
そう、どうしようもない。分かり合えるとも思えないし、分かり合っても、だから何だと言う。あいつらを、あの世界に引き込めというのか。
そんなこと、できるわけがない。
「ふふっ、永遠の課題だね」
「こればっかりは、仕方ないわね」
「要らん悩みを抱えたもんだ」
同じ悩みを共有できるのは、同じ世界を歩く人だけだ。
「嘘は悪じゃない。嘘にだって、善悪はあるさ。それでも嘘を悪だと言うなら、それはきっと必要悪さ」
リユスが深いんだか深くないんだか分からないことを言う。嘘の善悪……か。嘘に善悪なんてあるんだろうか。嘘は嘘。それ以上でもそれ以下でもない。
結果が、良いか悪いか。それだけだ。
「ああ、そうだ」
俺は首だけ動かして、カスミを見る。
「カスミ、学校行こうぜ」
「え?」
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