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「行かない」
「はえーよ」
少し笑ってしまう。一瞬の逡巡から飛び出たのは当たり前のような否定。そりゃそうだ。カスミが少し不機嫌顔なのも当然。
「さっき言った全校登校日。せっかくだし行こう」
「なんで行かなきゃなんないのよ」
膨れるカスミはさっさと話題を切り捨てようとする。そっぽを向いて、口を噤む。まあ、確かに今更だとは思うが。
俺は考えていたことを、口にする。
「休学届け、出しとけよ」
逸らしていた視線が戻ってくる。俺の言葉が予想外だったらしい。目がぱちくりと瞬き、単純に驚いている。
「俺と違って、お前はもうあっちの学校にしか行かないんだ。だったら退学でも休学でもしといた方が無駄な学費もかからないだろ」
訝しむような瞳を俺に向け、どうやらカスミは思案しているらしい。何か思惑があるのだと勘ぐっている。
確かに思惑はある。
「隠さないで言う。母親との決着つけて来いよ」
驚いた表情が、さらに驚く。俺の提案はそれなりに突飛なものだし、カスミにとっては嫌な提案だ。
でも、思う。
とんでもないお節介なのかもしれない。だけど、カスミの話も俺は聞いた。
どっちつかずは、よくない、と思う。
「休学はついでだ。休学届けには保護者の同意が要るはず。そこでよく話せばいい。色々あるだろうが、高校も家庭も中途半端はいつか拗れる。はっきりさせたほうが、良い」
なんでアンタにそんなこと、とは返ってこなかった。そう返ってくると思っていた俺には少し意外だった。カスミは少し伏し目になり考えている。
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