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「ほら、でも今日はこのとーり」
意味ありげに背中を見せつける。背負ったラケットバッグを慶佑の方に向けた。
「ならいいけどよ。もう夏休みだって終わりだぜ。海斗この夏全然練習来てない」
「夏バテかなあ」
当たり障りなく進める会話は嘘と虚構に覆われたもの。殺し合い、なんて冗談でも言えない。
辺りに同じ制服を来た学生が増える。校舎は既に見えており、生徒たちはその門にどんどん吸い込まれていく。リーファと違って小さな門だし、服は白い。
当たり前だったそれが、少し遠く感じた。
「慶佑?」
横を見ると、慶佑がいない。振り返ると少し後ろで慶佑が立ち止まっていた。
「何してんだ慶佑」
川の流れを妨げる岩のように、慶佑の脇を人が流れていく。邪魔だと表情に出しながら、生徒たちは慶佑を避けていく。
「なぁ、海斗」
慶佑は少し俯いていた。不吉な雰囲気さえ感じた。
拳を軽く握り、何かを言おうとしている。そんな風だった。
そんな慶佑の様子を見て、俺は反射的に願ってしまう。
「電話したあの日、誰かと一緒だったか?」
頼む。頼むから、慶佑。
「いや、1人で寝てた」
お前は〝こっち〟に、来ないでくれ。
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