第1章

11/25
前へ
/165ページ
次へ
放課後、私は今日もほぼ満点だった古典のテスト用紙を大事に抱え、茜ちゃんを待った。 夜千ちゃんが私の元に駆け寄って来るのが見えた。夜千ちゃんはいつも私のことを気遣ってくれる。大人の余裕だろう、と勝手に解釈していたが、時々、ドキッとするぐらい物悲しげな顔を私に向けるのだ。私は、そんな顔の夜千ちゃんを見ると罪悪感に襲われる。夜千ちゃんから大切な何かを奪ってしまっているのではないか。考え込むと、そっと手を包まれていた。夜千ちゃんの手は意外にも暖かい。 「や、夜千ちゃん、茜ちゃん遅いね」 私と夜千ちゃんの身長差は30センチあるのではないだろうか。私はこのまま連れて行かれないか心配になった。 夜千ちゃんは優しく私の頭を撫でた。白みがかった茶髪がくるくると夜千ちゃんの手に絡み付く。今朝、髪の毛を解くのを忘れていたことを思い出し、おずおずと夜千ちゃんの顔色を伺う。 夜千ちゃんは優しく、言った。 「また仁村さんが何か言って来たら、私が相手になると言っておいて下さい、雛さん」 私は古いコンクリートの壁に寄りかかりながら、夜千ちゃんの手を握り締めた。そうすれば、きっと物憂げな顔から醒めてくれる気がした。 夜千ちゃんは少し驚いた顔をしたが、直ぐに穏やかな笑みを作る。 「雛さんは本当に可愛らしいです」 私は夜千ちゃんを恋敵にしている自分に嫌悪感を抱いた。 「夜千ちゃん、ごめんなさい」
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加