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放課後、私は今日もほぼ満点だった古典のテスト用紙を大事に抱え、茜ちゃんを待った。
夜千ちゃんが私の元に駆け寄って来るのが見えた。夜千ちゃんはいつも私のことを気遣ってくれる。大人の余裕だろう、と勝手に解釈していたが、時々、ドキッとするぐらい物悲しげな顔を私に向けるのだ。私は、そんな顔の夜千ちゃんを見ると罪悪感に襲われる。夜千ちゃんから大切な何かを奪ってしまっているのではないか。考え込むと、そっと手を包まれていた。夜千ちゃんの手は意外にも暖かい。
「や、夜千ちゃん、茜ちゃん遅いね」
私と夜千ちゃんの身長差は30センチあるのではないだろうか。私はこのまま連れて行かれないか心配になった。
夜千ちゃんは優しく私の頭を撫でた。白みがかった茶髪がくるくると夜千ちゃんの手に絡み付く。今朝、髪の毛を解くのを忘れていたことを思い出し、おずおずと夜千ちゃんの顔色を伺う。
夜千ちゃんは優しく、言った。
「また仁村さんが何か言って来たら、私が相手になると言っておいて下さい、雛さん」
私は古いコンクリートの壁に寄りかかりながら、夜千ちゃんの手を握り締めた。そうすれば、きっと物憂げな顔から醒めてくれる気がした。
夜千ちゃんは少し驚いた顔をしたが、直ぐに穏やかな笑みを作る。
「雛さんは本当に可愛らしいです」
私は夜千ちゃんを恋敵にしている自分に嫌悪感を抱いた。
「夜千ちゃん、ごめんなさい」
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