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春の日差しが暖かい。
私を起こした茜ちゃんの丸められた教科書に未練がましく拗ねた視線を向ける。
茜ちゃんは威風堂々と豹のようにしなやかに身をかがめた。
「何、寝言言ってるかと思えば、私を悪人に仕立てて、『茜ちゃん、痛い』とか!私が何、雛に悪さしたのよ。言ってみなさい」
私は慌てた。
「ご、ごめんね。ただ何となく茜ちゃんに意地悪される夢見てただけだから……!」
いきなり頬をつねられる。
「もう雛ったら、私を何だと思ってるのよ。節分の日の鬼でもあるまいし。ね、夜千(ヤチ)」
夜千ちゃんがぼんやりとした目を向け、微笑む。
「茜さんは鬼役ピッタリですよ」
茜ちゃんは呻いた。
「もう!頭に来ちゃう!今度、マック奢ってよね?」
冗談半分の茜ちゃんに私は真面目に答えた。
「あ、茜ちゃん、い、いいよ……」
茜ちゃんが大声で笑った。悪意は微塵も感じさせない軽快な笑い声だった。
「あら、この子、紅くなってる~。女の子同士のあれかな?」
茜ちゃんが茶化すから、私は笑って済ますしかなくなった。
「ち、違うよ~。ただうち、茜ちゃんちよりお金持ちだから」
ひ~な~、と茜ちゃんは怒っているようにおどけて見せる。私はキャッキャッ言いながら、茜ちゃんの手から逃れようとした。
本当は捕まりたかったけど、茜ちゃんが夜千ちゃんを好きなこと知っていた。
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