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「ん~~だって、これ以上鈴原さん後ろに下がったら、点滴車に突っ込んじゃうじゃないか」
えっ、と振り返れば、確かに。
患者さんに合わせて、調合済みの薬液が一杯下がった銀色のワゴンに倒れこむ寸前で。
ほとんど、透明のプラスチックパックで出来た輸液セットだったけれど、中には落とせば砕けるガラス製のもある。
近藤先生は、そこに倒れ込むのを防いでくれたんだ。
「あ……ありがとうございます」
良く考えれば。
後ろに下がった原因は、近藤先生が近くてびっくりしたから、なのに。
そんなコトをすっかり忘れ。
助けてもらったことにお礼を言って離れようとすれば。
近藤先生は、わたしを放してくれなかった。
「ち、ちょっと今度はなんなんですか!」
焦って鋭くささやけば、先生は、眠そうな声のまま呟いた。
「ん~~眠い~~
オレ、日勤やって当直やって、また日勤やってさぁ……結局昨日も家に帰れなくてさぁ……
……なんか、鈴原さん抱きしめごごちいい~~な~~なんて。
タバコの臭いがそんなにしないからかなぁ?
おちつく~~ なつく~~」
「……相当眠いんですね?
その、眠くなると、誰にでもなつくくせ、なんとかしたほうが良いですよ」
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