渡狸と京の出会い

2/12
前へ
/12ページ
次へ
「いらっしゃいませ」 桜の花が散って青葉がしげり、まだ少し肌寒い5月上旬の日曜日。 バイトを始めてから2年が経過しようとしていた。 仕事には慣れたものの、相変わらず店長に注意される日々。 彼にはまだまだ足りない要素がある。 「渡狸(わたぬき)くん!もっと愛想よく!笑顔でって毎回言ってるでしょう!」 「はぁ、すみません」 店長にまた怒られてしまった。 自分では笑顔で接しているつもりだが、どうやら無表情のようだ。 思い返してみれば小学校や中学校の写真を見返しても笑ってるものなんて一つも無かったし、まず端っこにしか写っていない。 みんなは友達とわいわいニコニコしてピースをキメていても、友達など居た試しがない渡狸には到底無理な話だ。 (まぁ、別に必要と思ったことも無いけど) 別にイジメられていたとか、そういうのではなく、ただ単に周りより冷めている性格の渡狸に周りが遠のいただけ。 そしてバイトをしているのは大学に進学する為の金稼ぎだ。 バイトをするにはこの「ブックスラビット」は時給800円でアパートも近いことから最高の仕事だと思う。 生活費は毎月送られてくるが両親はラブラブの万年新婚旅行だから頼るに頼れない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加