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「どうする?どっちとる?」
「うーん。でももうすぐだと思うから、とりあえず先にキスしとく。」
「目は?」
「集中したいしつぶる。」
「じゃあ俺は開けるわ。」
「集中できるの?余裕だね。」
「余裕なんてないわ。常にいっぱいいっぱいだ。」
辞書はここで引くべきだった。“焦る”の本当の意味を、今知りたい。
「澤ちゃんって、何にも考えてないように見えて、結構焦ってるよね。」
「は?何言ってんだよ。」
「出会った時、すでに焦ってたし。顔真顔なのに焦り前面に出てたし。」
「うるせーよ。」
あの出会いがなければ、今のこの時間もないんだよな。
あの日、家の鍵持ってなくて良かったわ。
「あ、ごめん。澤ちゃん。多分そろそろだわ。」
「まじかよ。おい、顔こっち見せろ。」
岸の声が強くなった。俺の声も強くなった。
この連鎖はきっとずっと続いていく。
やっぱりお前は俺を導いてくれてるんだな。
お前こそが、俺にとっての辞書であり、最強の存在なんだな。
俺は岸の顔を両手で優しく包み、そっとキスをして、岸の大きな瞳に俺だけを映すように岸を完全に拘束した。
何処にもやらない。俺の岸だ。
岸は少しだけ笑って、
「澤ちゃん。最後に顔見れたのが、澤ちゃんで良かったよ。」
と、言ってくれた。当然だろ、恋人なんだから。
その後、俺達は唇が切れそうになるまで、何度も何度もキスをした。
二人の好きの気持ちが、その痛みを掻き消すぐらいの、甘くとろけるようなキスをその瞬間が来る直前までし続けた。
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