疑惑の追跡

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雫ちゃんが蟲に取り憑かれて初めての朝。 昨夜は惜しい所まで行ったと思ったけど、結局主の元には辿り着けず。 ボサボサの頭を掻きながら、私は雫ちゃんに目を向けた。 昨日に比べて……蟲の動きが活発になってる気がする。 早くどうにかしないと、長くて三日と言っていたから、それよりも早く雫ちゃんの命が尽きるかもしれない。 デイパックから歯ブラシを取り出して、洗面所に向かった。 廊下には、村田さんがどっしりと構えて床に座っている。 「起きたか。だったらもう大丈夫だな。俺も一眠りしてから店に向かうとしよう」 大きなあくびを一つ。 西尾さんが寝ている部屋のドアを開けて、中に入って行った。 もう朝だし、役目は果たしたと安心したのだろう。 私は洗面所に入り、歯ブラシに歯磨き粉を付けてそれをくわえた。 今日は何をするんだろう。 手掛かりがなくなったから、また別の手掛かりを掴む為に何かを探すの? 物凄く遠回りをしているような気がするけど、他に方法はないのかな。 「やあ、可愛い音彩ちゃんと朝を迎えられるなんて、俺は世界で一番の幸せ者だ。さて、おはようのヴェーゼを……」 いつの間にか背後にいた西尾さんが、唇を尖らせて迫って来た。
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