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 大講堂に戻ると、すぐにアナウンスが響いた。歓声が異様な盛り上がりを見せる。 「準決勝第1試合の選手を紹介します。近衛(このえ)四家最強の次期当主、東園寺(とうえんじ)崋山(かざん)」  ここからは新たな煽(あお)りの言葉が加わったようだ。やはり最強は自分ではなくカザンなのだ。タツオは皮肉にそう考えた。幼馴染(おさななじ)みはゆっくりと畳張りの試合場に続く階段をのぼってくる。つぎの当主は新しい白装束に着替えていた。白い袴(はかま)にはテルにつけられた血の跡は残っていない。 「続いて、エウロペ日乃元(ひのもと)奇跡のダブル、万年順位1位の天才貴公子、菱川(ひしかわ)浄児(じょうじ)」  ジョージがタツオにつぶやいた。 「いってくる。ちゃんと見ててくれ」  明るい茶色の長髪をなびかせて、階段を駆けあがった。真紅の氾(はん)風のスタンドカラーの礼服がふわりと風を受けて、帆のようにふくらむ。女性ファンからの黄色い声援がアイドルのコンサートのようだ。
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