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師走なのに、春風がそよいだ…
前から歩いてきた、春風の様なダンダラの羽織姿の侍が、微笑みかけたのだ。
侍は懐から白い紙を取り出した。
白刃を振りかざし迫り来る男に、白紙をかざした?
「路傍土 白蝋金 陰微陽極…」
するとどうだろう。
男は侍のかざした白い紙に、たちまち吸い込まれていく。
春風の様な侍が微笑んだ。
助かった?
今日は斬られなくて…済むの?
侍が近づいてくる。
「もっと早くに、気がついてあげられれば良かったのだが」
侍が指を絡ませ、印を組む。
その口から、優しい呪がもれる…
あぁ…軽くなっていく。
自分を縛りつけていた枷が外れ、解き放たれていくのを感じる。
「……急々如律令」
ぁあ…自分が希薄になって…師走の空に溶けていく…
これで…いつかまた…新しい歳神様に会えることもあるかもしれない。
あぁ…苦しみもなく、存在が希薄に…
ありがとう…
道行く人々は足早に歩いていく。
家路を急ぐ人の流れから外れ、山南啓助は腰を屈めた。
足元の土にから、桜の飾り細工が覗いていた。
山南は汚れてあせた簪を拾いあげると、そっと埃を祓った。
さぁ、帰ろうと、山南啓助が微笑んだ
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