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悲劇の始まり 1
転院先の、慎の旧友でもある医師の見立ても、始めに入院した医師と変わりがなかった。
もっと早くに発覚していれば良かったのか、と問うと、渋面を作った。
「癌は、治すのが難しい病気だからね。手術を勧められたのはあくまでも短期的な延命のため。根絶は、多分、無理だろう。
検査で出る数値はあくまでも目安だから、開いてみないと程度はわからないんだ、実際のところ」
と友は言った。
「開く、とは、開腹手術をするということか?」
慎は言う。
「有り体に言えばそういうことになる」
「お前、医者だろう、わからないなんて、投げやりなことを言うな!」
知らず、激して席を立った慎は友人に詰め寄った。
「自分も、情けないと思っているよ」
患者や家族の扱いに長けている友人は静かに言う。
「今の医療技術では……それこそ人の中身を覗く方法があれば話は別だが、残念ながらできることはないんだよ。申し訳ない」
悲劇の始まりだ。
慎は思う。
今度こそ。今まで思ったこともなかった、けれど、今度ばかりは自分ではどうすることもできない……。
「私は、感情をコントロールしなければならない、私が動揺すると息子も妻も大きくぶれる。わかっているんだ。けれど」
慎は手の平を何度も開けて閉じて言った。
「くやしいなあ」
友は、応える代わりに、うん、と唸った。
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