【11】悲劇の始まり

2/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
悲劇の始まり 1  転院先の、慎の旧友でもある医師の見立ても、始めに入院した医師と変わりがなかった。  もっと早くに発覚していれば良かったのか、と問うと、渋面を作った。 「癌は、治すのが難しい病気だからね。手術を勧められたのはあくまでも短期的な延命のため。根絶は、多分、無理だろう。  検査で出る数値はあくまでも目安だから、開いてみないと程度はわからないんだ、実際のところ」  と友は言った。 「開く、とは、開腹手術をするということか?」  慎は言う。 「有り体に言えばそういうことになる」 「お前、医者だろう、わからないなんて、投げやりなことを言うな!」  知らず、激して席を立った慎は友人に詰め寄った。 「自分も、情けないと思っているよ」  患者や家族の扱いに長けている友人は静かに言う。 「今の医療技術では……それこそ人の中身を覗く方法があれば話は別だが、残念ながらできることはないんだよ。申し訳ない」  悲劇の始まりだ。  慎は思う。  今度こそ。今まで思ったこともなかった、けれど、今度ばかりは自分ではどうすることもできない……。 「私は、感情をコントロールしなければならない、私が動揺すると息子も妻も大きくぶれる。わかっているんだ。けれど」  慎は手の平を何度も開けて閉じて言った。 「くやしいなあ」  友は、応える代わりに、うん、と唸った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!