【11】悲劇の始まり

3/6

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
   ◇ ◇ ◇  男所帯の高遠家は、親族に女性はいなかった。茉莉花の父母はとうに鬼籍に入って長く、家督を継いだ次郎は独身、三郎は今どこで何をしているかわからない。  看病を頼める女手が不足していたので付き添いを雇った。気さくな年配の付き添いの女性は茉莉花の良い話し相手になった。  ある日のことだった、付添に急用ができて、茉莉花を看る人手が絶えた。  すみません、と何度も頭を下げる彼女に、「一日二日くらい大丈夫。ここは完全看護だし、最近は気分が良いし。行ってらっしゃい」と茉莉花は笑って送り出した。  私が、僕が付き添うから、と言いだした男ふたりを「あなたがたは自分の役割を果たしてからいらっしゃい、面会時間の間だけね」とぴしゃりと言って締め出し、茉莉花は病室でひとり本を読んでいた。夜に少しでも眠れるよう、ベッドから身を起こしていたけれど、本ばかり読んでいるとかえって目が疲れて夜に眠れない。本から目を離した時、彼女の病室のドアを、コツコツと二回叩く音がした。  看護婦さんかしら。 「どうぞ」と応えると「失礼します」と言う声がする。  誰かしら、と訝しげに入って来た相手を少し見て、ああ、と茉莉花は言った。 「あなた、たしか……」 「ご無沙汰しています」  一礼する人は、一度会ったきり、それもろくに話をしていないけれどまったくの他人とは言えない女性。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加