【11】悲劇の始まり

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「政君の、奥様の……」 「加奈江です」  少し前に会った、彼女の姉の娘さんだという小さな女の子の印象が深くて、加奈江とはほとんど話をしていなかった。 「先日はどうも」 「お姉様と小さいお嬢さんはお元気?」 「ええ、変わりありません」 「そう。良かったこと」  会話が、落ちる。  政は正妻の子供で、その妻である彼女と何をどう話したものやら。  私は愛人だ。  茉莉花が言葉に困っていると、加奈江は言った。 「お義父様に、相談されたんです。もし、嫌でなければ、話し相手をしてくれないか、と」  あの人が? 彼女は驚いた顔を見せた。 「本当にお困りのようでしたし、私なら手も空いていますし。何かお手伝いできることはありますか? お洗濯とか」 「あるといえばあるけれど、でも、あなた、私が誰か知っているの?」  こくり、と加奈江は頷く。 「政さんも、あの人のお母様もこのことは知りません。話しませんから、安心して下さい」  二十二,三の女性が、何としっかりしていることか。 「じゃ。お洗濯済ませてきますね」  茉莉花が止める前に、政の嫁は洗濯籠を手に病室を出ていた。  気分の良い人だこと。茉莉花は彼女が去ったあとをしばらくながめていた。
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