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悲劇の始まり 2
◇ ◇ ◇
「政君は、やさしい?」
あっという間に用事をすませた加奈江と、茶を飲みながら、何と真抜けたことを聞くのだろう、と茉莉花は思った。
「うーん、どうでしょう」
少しも悩まず、加奈江は言う。
「やさしいと言うより、不器用ですね。一事が万事、全部そう。でも、一本気で、純粋です。私が必要だといつも言ってくれる。嘘が下手だから、わかりやすいですし。だから、結婚しました。大切にしてくれると思ったから」
「そう」
茉莉花は目を閉じた。
息子の嫁と話している気分だ。
「お疲れになりました? 私、そろそろ失礼しましょうか」
加奈江は腰を浮かせて帰り支度を始める。
「いいえ、いいの。ちょっとね。あと少ししたら、うちの子も結婚して。お嫁さんを連れてきたら、こんな風に話すのかしらと思ったの」
いいから座って、と加奈江を促し、そして、続けた。
「政君には、申し訳ないことをしたわ。彼が温かい家庭を欲しがるきっかけを作ったのは私のようなものだから。彼には何度謝っても謝りきれない。加奈江さん、いつか、今でなくてもいいわ、遠い将来、彼と私のことを話す日が来たら、伝えてほしいの、申し訳なかった、って」
「お断りします」
直球で加奈江は返した。
「お義母様が、直接政さんに言って下さらなくちゃ。私、彼を連れて来るところまではします。けど、その先は。やっぱりお義母様の役目です」
「私は、母ではなくてよ」
「いいえ、私にとってはお義母様です。政さんも、心の底ではそう思ってる」
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